成尾整形外科病院

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整形外科手術後のせん妄リスクを徹底解説|高齢者に多い理由と予防策

 

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【高齢者に多い!術後せん妄とは?】

整形外科の手術を受けた高齢の方で、手術後に「意識がもうろうとする」「混乱して自分がどこにいるかわからなくなる」といった状態になることがあります。これを「術後せん妄(Postoperative Delirium:POD)」といいます。

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特に股関節や膝関節の手術後に多く見られ、高齢化が進む現代では、ますます重要な問題となっています。せん妄になると、入院が長引いたり、生活の質が低下したり、医療費が増える原因にもなります。

本記事では、2025年に発表された最新の系統的レビューとメタ解析の結果から、術後せん妄のリスク因子を紹介し、どのように予防するべきかをわかりやすく解説します。


【リスク因子を知ろう!せん妄を引き起こす要因とは】

年齢や既往歴が大きく影響

研究では、せん妄になった患者さんの多くが高齢者であることが明らかになりました。具体的には、75歳以上でリスクが高く、年齢が高いほど危険性が増すという結果でした。

また、過去にせん妄を起こしたことがある人や、認知症、軽度認知障害、パーキンソン病、心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方も、特に注意が必要です。

これらの病気は、脳への血流が減ったり、神経の働きが乱れることで、せん妄を起こしやすくなると考えられています。

栄養状態やホルモンバランスも関係

手術前の検査で、以下のようなデータが悪い場合もリスクが高いとされました。

  • 低アルブミン血症(=栄養状態が悪い)
  • 高CRP(=体の炎症が強い)
  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)の異常

特にアルブミンが低い場合、免疫力の低下や回復力の遅れから、せん妄につながることが示唆されています。

また、甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、精神的な混乱が起きやすくなるため、術前の内分泌チェックも重要です。

手術の内容や麻酔も影響

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術中・術後の要因としては、以下が挙げられます。

  • 手術時間が長い
  • 麻酔の時間が長い
  • 入院日数が長い
  • 全身麻酔を使用した
  • 手術中や術後に輸血があった

これらはいずれも体にかかるストレスや炎症を強め、脳機能に影響を及ぼすと考えられます。


【せん妄の予防と対策:チーム医療の重要性】

情報を共有してリスクを見極めよう

せん妄は、正しく予測し、予防できる病態です。今回の研究で示された20のリスク因子は、ほとんどが医療者が術前に把握できる情報です。

医師だけでなく、看護師、薬剤師、リハビリスタッフなどが情報を共有することで、リスクの高い患者さんを事前に特定し、対策を立てることができます。

栄養ケアと早期離床がカギ

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予防のポイントは、以下のような取り組みです。

  • 術前から栄養状態をチェックし、必要があれば補助栄養を追加
  • 早めにベッドから起こしてリハビリを始める
  • 昼夜の区別をつける工夫(朝起こして夜は暗くするなど)
  • 必要最低限の薬で管理(多剤併用は避ける)

また、認知機能が低下している方には、日常的な声かけや時間・場所の再確認など、環境面の工夫も有効です。

家族の協力も重要です

ご家族が患者さんの様子を把握し、いつもと違う言動が見られたときには早めに医療スタッフへ伝えることも、早期発見と対処につながります。


【まとめ:せん妄を防ぐために今できること】

整形外科手術後のせん妄は、単なる「混乱」ではなく、命やその後の生活にも影響する重大な合併症です。

しかし、今回紹介した研究により、多くのリスク因子が明らかになりました。

術後せん妄を防ぐためには、

  • 高齢者や既往歴のある方を早めに見つけ出すこと
  • 術前の栄養・内分泌評価
  • 術後の早期離床・リハビリ・声かけ
  • 多職種チームでの協力

が非常に重要です。

ご自身やご家族が整形外科手術を受ける予定がある場合には、せん妄について知っておくことが、回復の第一歩になるかもしれません。


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